では、なぜこのような機能をWi-Fiルーターに搭載しようと思ったのだろうか? そのきっかけについて吉田氏は次のように語った。
「開発のスタートは、Wi-Fiに何がつながっているのか、誰がつないでいるのかがわかりにくいという不安を解消できないだろうか? と考えたのがきっかけです。ここ数年でWi-Fiにつながる機器が増えてきたことで、よりその課題が浮き彫りになってきました」。
確かにWi-Fiに接続する機器の数は、今や数年前とは比較にならない。スマートフォン、タブレット、PC、ゲーム機、テレビ、レコーダー、家電など、あらゆる機器がWi-Fiでつながるようになりつつある。
このような状況の中、現在、Wi-Fiに何台の機器がつながっているのかを即答できる人はほとんどいないだろう。これでは、現在利用しているWi-Fiルーターが、果たして十分な性能を提供できているのかも判断できなければ、万が一、自分の知らない端末が不正に接続していたとしてもまったく気づくことはできないわけだ。
吉田氏は続ける。「Wi-Fiに接続する端末を管理する機能は、これまでにもMACアドレスフィルタリングなどの一般的な機能がありました。しかし、そもそも『MACアドレス』について知らない方が多いうえ、設定もMACアドレスを手入力するケースなどもあり、わかりにくく、誰もが使える機能ではありませんでした」。
Wi-Fiの登場当初は、暗号化のためのパスワードと並んで、ほぼ必須の機能として紹介されることも多かったMACアドレスフィルタリングだが、最近では積極的に利用されているとは言い難い。「せっかくの機能なので、それほど詳しくない方など、多くの人に使ってもらいたいという思いから、使いやすく発展させることにしました」という吉田氏の言葉ももっともだ。
「幸い、当社では、MACアドレスフィルタリングを発展させた機能として、インターネット接続時間を制御できる『こども安心ネットタイマー』という機能を提供してきました。この機能はお子さまのいるご家族の好評を得ていた機能ですが、この機会にさらに使いやすく、より幅広い方々に使ってもらおうということで、『見えて安心ネット』へと進化させたことになります」(吉田氏)という。
とはいえ、いくら分かりやすくするとしても、もともとの認知度がそれほど高くない機能であるため、実際にルーターに搭載するには、それなりの裏付けも必要になる。そこで、同社は市場調査も実施している。
Wi-Fiに接続された端末の情報を管理できるという「見える化」の機能について事前に説明したうえで、「見える化」について関心があるかどうかを調査したところ、全体の59%が関心ありと答えたうえ、Wi-Fi利用者の中でも3×3以上の高速なWi-Fiルーターを使っているユーザーは79%とさらに高い割合で関心ありと答えているとのことだ。
実際に接続端末の全容が掴めないことや、端末がきちんとつながっているのかどうかについて、多くのユーザーが不安を持っているという事実はこの結果からも明らかだ。メーカー側の独りよがりではなく、きちんとユーザーのニーズがあるかどうかを確かめてから機能を実装するあたりは、いかにも同社らしい生真面目さだ。