世界中の通信事業者が5Gネットワークの構築に向けて競い合うなか、米国ではこの次世代ワイヤレス技術の健康リスクを危惧する一部の政府当局者が規制に乗り出している。
オレゴン州ポートランド市議会は2019年、連邦通信委員会(FCC)に5Gの潜在的な健康リスクに関する研究をアップデートするよう求める決議を行った(米国小児科学会は2013年、携帯電話の一般的な使用に関する研究について、FCCに同様の要求をしている)。
また、ルイジアナ州議会下院は19年5月、環境と健康に対する5Gの影響を研究するようルイジアナ州環境基準局とルイジアナ州環境省に求める決議を採択した。サンフランシスコ・ベイエリアでは、ミルヴァレーやセバストポルなど一部の町が、通信キャリアによる5Gインフラの構築に待ったをかけている。
米国下院議員のピーター・デファージオ(オレゴン州選出)はFCCへの書簡のなかで、5Gに関連する新技術についてこう懸念を記している。「5G技術の導入が目前に迫っているが、その実装のためには何十万もの『スモールセル(小型基地局)』を、住宅地を含む全国の地域社会に設置しなくてはならない。こうした設備は、旧世代の通信技術より高い周波数の電波を発する」
米国では、セキュリティ問題や気象予測システムへの干渉の可能性のほか、5Gの展開を早めるという名目でFCCが自治体の規制当局に対して強権的な措置に出る可能性など、5Gの導入を巡るさまざまな問題が懸念されている。
だが、5Gに対する健康上の懸念は誇張されている。もともと旧世代の通信サーヴィスでがんにならないか心配していなかった人にとって、5Gが何か新しい不安要素をもたらすわけではない。むしろ、そもそも心配する必要などない可能性が高いのだ。
当面の間、高周波数帯を利用する5Gサーヴィスはごく一部になる。高周波数帯を用いたとしても、それが可視光などその他の電磁波より有害であるという根拠はほとんどない。
5Gによる健康への影響で主に懸念されているのは、大幅な高速化を実現するとされる高周波数帯「ミリ波」の技術だ。
ミリ波による通信の問題は、通信キャリアが従来から利用している低周波数帯と比べて、長距離通信の信頼性が大きく劣る点にある。それゆえ、ミリ波の周波数帯で信頼性が高くユビキタスな5Gサーヴィスを提供するには、小規模なアクセスポイントを大量に設置しなくてはならないのだ。
これがふたつの懸念を生んだ。まず、従来の周波数帯と比べ、ミリ波の信号はより危険である可能性があること。そして、アクセスポイントが増やされて住宅との距離が縮まることで、人々が4Gサーヴィスを使っているときより多くの電磁波にさらされる可能性があることだ。
しかし、通信キャリアが5Gサーヴィスの提供で用いる周波数帯は、ほかにももある。ミリ波をメインで利用することを予定しているわけでもない。
例えば、現在米国で最も普及している5GサーヴィスはTモバイルが提供しているものだが、これはテレビ放送で利用していた低周波数帯を使っている。これに対してスプリントのサーヴィスは、4Gに使う「中周波数帯」の一部を5Gに転用したものだ。ベライゾンとAT&Tは、ミリ波に基づくサーヴィスを提供しているものの、利用可能な場所はごく一部に限られている。