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「古き良きJRPG」の面白さって、何だろう?──『ブレイブリー』シリーズはそんな問いから生まれた。スマホ向け最新作『ブリリアントライツ』は「難しいけど、楽しい」あの頃の面白さを今もなお届け続ける

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「古き良きJRPGの復権」を掲げた『ブレイブリー』シリーズの10周年記念タイトル『ブリリアントライツ』がスマホゲームで登場。コンシューマで人気を博したシリーズのアニバーサリータイトル、それもやり込み度の高いシングルプレイRPGを今、スマホで送り出す背景には、いったいどのような意図があるのか。『ブリリアントライツ』のプロデューサー・小松陽平氏に、疑問を投げかけてみた。

「古き良きJRPG」の面白さって、何だろう?──『ブレイブリー』シリーズはそんな問いから生まれた。スマホ向け最新作『ブリリアントライツ』は「難しいけど、楽しい」あの頃の面白さを今もなお届け続ける

 「あの頃のRPGを、今の技術で」というコンセプトのもと、「JRPGの復権」を掲げて『ブレイブリーデフォルト』がニンテンドー3DSに登場してから、早くも10周年を迎える。 【この記事に関連するほかの画像を見る】 2022年1月27日に配信がスタートした『ブレイブリーデフォルト ブリリアントライツ』(以下、『ブリリアントライツ』)は、「ブレイブリー」シリーズの10周年を記念するタイトル。オリジナルのキャラクターに加えて、過去の「ブレイブリー」シリーズの人気キャラクターが続々と登場する『ブリリアントライツ』は、まさに10周年にふさわしいオールスター作品と言える。 とはいえ『ブリリアントライツ』は、「ブレイブリー」シリーズが、ひいては過去のJRPGが主戦場としてきたコンシューマ機ではなく、iOS/Android用のスマホ向けタイトルである。しかも基本プレイ無料という形態ながら、キャラクターガチャの存在しないシングルプレイ中心のRPGとなっている。 コンシューマで人気を博したシリーズのアニバーサリータイトル、それもやり込み度の高いシングルプレイRPGを今、スマホで送り出す背景には、いったいどのような意図があるのだろうか。 しかもスマホ向けRPGでは近年の定番となっているキャラガチャを、あえて廃すると謳っているのはなぜなのか。今回のインタビューではそうした疑問を、『ブリリアントライツ』のプロデューサーである小松陽平氏に、ストレートに投げかけてみた。 そこで明らかになったのは、スマホゲームに対するユーザーの意識や、ゲーマーの世代交代によるゲームへの向き合い方が、今ではかなり変化してきているという事実だ。だが一方で、「ブレイブリー」シリーズが登場してから10年の時を経たことで、JRPG自体を新鮮な感覚で受けとめる世代も登場してきている。 『ブレイブリーデフォルト ブリリアントライツ』が、スマホで目指す「古き良きRPG」とはいったいどのようなものなのか。開発スタッフの言葉から、それを確認してみたい。聞き手/TAITAI文/伊藤誠之介編集/実存■「ブレイブリー」ファンに向けて作る一方で、新しく触れる人たちも意識している──『ブレイブリーデフォルト ブリリアントライツ』の企画は、どのような経緯で立ち上がったのでしょうか? 小松氏:本作の企画が最初に立ち上がったのは、『ブレイブリーデフォルトII』【※1】がまだ開発中で、その情報が世に出る前の時期でした。今後「ブレイブリー」シリーズをどうしていこうかというミーティングを、浅野智也さん【※3】や髙橋真志さん【※4】を交えて行ったんです。 『フェアリーズエフェクト』は、ファン層の拡大とシリーズの維持を担うことができたのが、いちばんの成功でした。なので、特にファン層の拡大というところは、引き続きスマホ側で担っていきたいと。シリーズを拡大していく上で、次のスマホタイトルをどう展開していこうか、と話し合ったのが立ち上げの経緯ですね。 ゲームの仕組みや、どうアプローチをしていくかについては、浅野さんや髙橋さんというより、我々のほうで独自に考えて提案していく形になりました。シリーズ1作目の10周年も近く、ファンに向けた作品を作ろうと現在のようなコンセプトに固まっていったんです。──『ブリリアントライツ』が他のスマホゲームと差別化を意識しているのは、どういった部分ですか? 小松氏: 本作に関して言うと、まず最初に「ブレイブリー」シリーズ10周年記念企画というお題目がありました。そこで、シリーズ10周年を彩る上でファンに向けてどういうものが喜ばれるのかなという視点で、ゲームの仕組みやコンセプトを考えていったところが大きいですね。 『フェアリーズエフェクト』を運営していて一番感じたのは、「ブレイブリー」シリーズファンの方も当然遊んでくれたんですけど、それと同等かそれ以上に、『フェアリーズエフェクト』で初めて「ブレイブリー」を知ったという方たちが、盛り上がりを見せてくれたんですね。そこでの手応えや得られたものは、非常に大きかったと思っています。 なので『ブリリアントライツ』でも、シリーズのファンに向けてという大きなコンセプトはあるのですが、その一方で新たに「ブレイブリー」シリーズに触れる方もきっと多いだろうと。そこをかなり意識しました。──『フェアリーズエフェクト』と、それまでの「ブレイブリー」ファンとで年齢層的な違いはあったのですか? 小松氏: 年齢層で言うとそれほど大きな差はなかったと思います。ただ、ふだんあまりJRPGを遊ばないような方々が『フェアリーズエフェクト』で新しく入ってきてくれたのが大きかったですね。──「ブレイブリー」を知らないお客さんが、なぜ『フェアリーズエフェクト』に興味を持って、遊ぶようになったのですか? 小松氏: まずスマホ市場で展開したことが大きかったのと、『フェアリーズエフェクト』では「ブレイブリー」の世界観を表現しつつ、ゲームシステム面では、マルチ要素が非常に強かったんです。他のシリーズ作品とは異なるユニークなバトルシステムを他のプレイヤーとコミュニケーションを取りながら攻略したり、ソーシャル要素がすごく強かったので、もともとスマホゲームリテラシーの高い方たちが“「ブレイブリー」は知らないけど遊んでみよう”と興味を持っていただけたのだと思っています。──なるほど。一方で『ブリリアントライツ』は、バトルシステムがコンシューマに回帰していますよね。このタイミングでそうしたスタイルを選択したのは、どのような理由でしょうか? 小松氏: 先ほどお話しした「新しいユーザー層を取り込みたい」というコンセプトは、いわばサブのミッションとして掲げているものでした。メインのミッションとしては、もともとの「ブレイブリー」シリーズのファンに対するアプローチなんです。なので、原点回帰的な原作体験であったり、オールスターというところを掲げています。 優先順位としてはまず、シリーズのファンにしっかりと受け入れられないといけない。そういった方たちに「ブレイブリーらしさが出ていて良いね」と好評を得ていないと、新しい人にも届かないと考えています。 でも「ブレイブリー」のゲームシステムって、シリーズファンのような特定層にしか響かない遊びなのかというと、そうではなくて。昔ながらの受容性の高い遊びで構成されているので、操作性をスマホに最適化して今風に合わせているところはあるのですが、可能性としては十分に広がりを見せることができると思っています。■中長期を見据えて運営を行うことで、キャラクターガチャがなくてもマネタイズしていく──『ブリリアントライツ』では「キャラクターを消耗品にしない」ということを謳っていますよね。より具体的に言うと「キャラクターガチャはやりません」と。なぜそうしようと思ったのですか? 小松氏: 理由としては、ユーザー満足度を意識した結果です。「ブレイブリー」シリーズはファンに向けて作ってきたという背景があるので、こういう仕組みを導入させていただきました。 「オールスターが登場する」と謳っている以上、ファンとしては当然、懐かしのあのキャラに会いたいと思っているはずです。 『ブレイブリーデフォルトII』の初報が出た時に、好評だった反面、「前作の主人公だったティズやアニエスにはもう会えないんだ」といった声も大きかったんですね。『ブリリアントライツ』はそういった声に応える役割もあるので。オールスター登場で、久しぶりに再会した思い出のキャラと一緒に冒険したいというのはファンの当然の心理ですから、そこに純粋に応えるために、こういう仕組みを選びました。──マネタイズの面で言うと、これまでのゲームとはどう違うのでしょうか? 武器などはランダムの要素があるようですが、それ以外の課金要素は? 小松氏: 一般的かもしれないですが、キャラクターの育成アイテムやスタミナ回復といった、いわゆる時短系の消費アイテムの販売を予定しています。 武器は、基本的にはガチャで提供するという形にはしているんですけど、無償で武器を入手できる手段も豊富に用意しています。 マネタイズ面に関しては、「ユーザーフレンドリーなのはいいんだけど、本当に大丈夫なの?」といった心配の声もいただいているのですが、我々としては中長期に運営していく前提で考えているので、マネタイズに関しても同様に考えています。──ちなみに「キャラガチャなし」という方針は、会社の承認を得る際に難航したりとか、そういったことはなかったのですか? 小松氏: それはなかったですけど、チーム内で話し合いをする時に「本当にそれでマネタイズは大丈夫なのか?」と、けっこう議論しましたね。決してすんなりいったわけではなくて、開発初期にビジネス面も含めて練った部分ではあります。──最終的にはどういうところが決め手となって「これでいこう」となったのですか?小松氏: 慎重に話し合いを続けて、中長期で運営していく際の具体的なゲームサイクルが見えてきた段階で、徐々にみんな納得して「これでいこう」という形に落とし込めたんです。 開発チームに、古くからソーシャルゲームの開発に携わっていたメンバーが揃っていたこともあって、ゲームサイクルやロジックがちゃんと見えてきたところで、みんなが納得してくれました。勢いで押し通したというわけではなくて、ロジックや数字の予測で納得感が得られたからこそ、今回のマネタイズ方式が採用できたんです。──先ほどのお話では、『フェアリーズエフェクト』がマルチプレイを重視した結果、新しいユーザーを獲得できたとのことでした。今回の『ブリリアントライツ』はシングルプレイが中心ですよね。なぜ今回はシングルプレイがメインに? 小松氏: 「原作体験を再現する上で、それがいちばん適切だったから」というところに尽きてはしまうんですけど……。 ソーシャルゲームとして考えた時の利点として、これは『フェアリーズエフェクト』の良かったところでもあり、悪かったところでもあるんですけど、MMOとはいかないまでも、MOぐらいソーシャル性の高いゲームだったんです。 そうするとファンのコミュニケーションが活発になる反面、相対評価というか、後から入ってきたプレイヤーにとっては、周りから置いてきぼりになる感覚を如実に感じるんですね。前作はマルチプレイありきのバトルだったので。それに対して今回はソロ中心のゲーム。周りを気にせずに自分のペースで楽しんでいただけると思います。──ちなみにプレイ時間というか、1日あたりこれぐらいの時間を使って遊んでほしい、というのはどうイメージされているのでしょうか? 小松氏: プレイヤーの皆さんの熱量に依るところはあるんですけど、今回はスタミナ制を導入しているので一応、天井みたいなところがあります。1日の回復上限のようなものですね。ただ、その天井もけっこう高く設定しているので、やろうと思えばガッツリ進められますが……。 平均的なところで言うと、たぶん2~3時間で1章を終えることは可能なんじゃないかと思っています。──ということは、メインのストーリーはわりとガッと遊べば終わって、あとはキャラの育成とかを楽しんでほしいという、そういう設計ですか? 小松氏: そうですね。ただ、メインストーリーもけっこう育成ありきで設計していて、2章、3章以降はしっかり育成しないと勝ち抜けない難易度になっています。序章や1章であれば、2~3時間と理解していただければと。それ以降は育成も込みだと、もっとプレイ時間は伸びていくと思います。──メインストーリー以外に、キャラごとのシナリオもあるのですか? 小松氏: メインストーリーとイベントのほかに、キャラクターストーリーをアップデートで順次追加していきます。今回はオールスターでパラレルな世界展開になってくるので、本来は会うはずのないキャラクター同士が出会って会話するというのも、『ブリリアントライツ』でしか描けない部分なんです。そこが強く描かれるのが、キャラクターストーリーですね。■「ブレイブリー」らしさとは、ターン制コマンドバトルのJRPGらしさである──僕の中では「ブレイブリー」シリーズって、キャラクター人気が高いイメージがあるんです。『ブリリアントライツ』ではキャラクターを立てたり、キャラクターへの思い入れを引き立てるような部分は、どのように考えられているのですか? 小松氏: おっしゃるとおり、「ブレイブリー」シリーズは1作目の時からキャラクター人気投票アンケートとか、いろいろとメディアさんでやっていただいているのもあって、キャラクターの魅力が強いゲームだと思います。 さらに言うと主人公側だけじゃなくて、敵キャラのほうにも意外とファンがいたりする。そういった面でのエピソードを期待しているユーザーさんは多いんじゃないかと思います。──敵キャラの人気が高いのは物語の面からですか? 小松氏: キャラクターそれぞれにエピソードが強いんですけど、特に1作目の『フライングフェアリー』の時は、敵キャラクターのデザインをゲストアーティストさんに作ってもらったというのもあって、かなり個性的な外見のキャラが多い。そういうところから、個々の敵キャラにもファンが多いという土壌ができているのかなと思います。──『ブリリアントライツ』に関しては、「ブレイブリーらしさ」であるとか「コンシューマライクな体験」といったキーワードが繰り返し出てきていますよね。でも現在、スマホならではの表現に最適化されたゲームが市場にたくさんある一方で、コンシューマライクな体験を謳ったスマホゲームをなぜ今送り出すんだろうと、不思議に思うところもあって。小松氏: そこは先ほども申し上げたとおり、『ブリリアントライツ』はマーケットに合わせるといった考え方をあまり持っていません。なので、「こういうものが最近求められてるよね?」「こういうのが流行ってるよね?」という考えでは作っていないんですよ。 今回はあくまで「ブレイブリー」というIPの次の作品という立ち位置から発信しているので、最近のトレンドというのとはまた違うのかなと思います。──なるほど。そうであれば、開発側として「これはいいよね」「面白いよね」と自信を持って送り出せる箇所は、具体的にどういったところなんでしょう? 小松氏: 「ブレイブリー」の良さは、シリーズを通して「古き良きJRPG体験」を表現することを、強く意識しているところだと思うんです。そこは『ブリリアントライツ』でも、忠実に再現できているのかなと思います。 「古き良きJRPG体験」と言っても、その捉え方はこれまで「ブレイブリー」シリーズを作ってきた浅野さんや髙橋さんとは少しずつ異なると思います。僕の場合は、「ターン制コマンドバトル」や「ジョブ」といったところがいちばん大きいと考えていて。 そして「ブレイブリー」ならではの魅力としては、「ブレイブ&デフォルト」【※】システムによるターンの前借りによって生まれる爽快感だと思っています。 JRPGのターン制コマンドバトルって、テンポ感があまり良くないみたいなイメージがあると思うんです。でも、そこを「ブレイブ」で解決して、テンポ感の良いバトルを実現できているところが、「ブレイブリー」ならではの魅力だと感じています。ターン制コマンドバトルだけどテンポ感が良いというのは、『ブリリアントライツ』でも同じように再現できている部分ですね。──「ブレイブリー」シリーズの生みの親である浅野智也さんから、「ここは守ってくれ」みたいなことを、何か具体的に言われているのですか? 小松氏: そこはほぼないですね。──そうなってくると、いよいよ「ブレイブリー」らしさって何だろうな? と思うんです。小松氏: 「ブレイブリーらしさって何だろう?」というのは、自分も本作の立ち上げ時に再考したことがあるんです。『ブレイブリーデフォルト』らしさを普通に考えると、まずはゲームシステムやジョブシステムの楽しさだと思いますし、世界観、アート、音楽、そして物語の面では「従わない勇気」のようにずっと引き継いでいる「ブレイブリーらしさ」があります。 また、主人公や味方キャラはもちろん、敵キャラもすごく魅力的なキャラが多いというのも「ブレイブリーらしさ」かもしれません。 「ブレイブリーらしさってなんだろう?」という問いかけのさらに手前にあるのは、『フライングフェアリー』の企画当時、浅野さんや髙橋さんたちがこだわった「JRPGの面白さってなんだろう?」という点だと思います。自分たちがプレイヤーとして影響を受けたあの頃のRPGは何が楽しかったんだろう?と考えた時に、「ジョブシステムって楽しかったよね」とか、キャラごとに特徴があって、それを駆使してパーティで役割分担しながら強い敵に挑んでいく、みたいなところが面白かったかなと思うんです。 今回は「ジョブシステム」は入っていないんですけども、その代わりにシーズに登場したキャラクターたちがプレイアブルとしてたくさん登場することで、ジョブシステムの代わりのようなものになっています。ジョブじゃないんだけれども、キャラクターごとにしっかりと特徴があって、そのキャラクターをどう駆使するか考えることで格上の強敵にも挑める。そうやって自分で考えたパーティでクリアした時に大きな喜びが得られるとか、達成感、爽快感が得られるというのは、非常に面白いなと思うところですね。 あとは『ブリリアントライツ』もそうなんですけど、「ブレイブリー」をやると、他のゲームに比べて敵が強いなって、すごく思うんですよね。「初見殺し」とか言われることもあるぐらいには、やっぱり敵が強いんです。 「ボスじゃない普通のザコ敵であっても、しっかり考えないと全滅することもある」というのは、JRPGの良さなのかなと思うんです。そういったところは『ブリリアントライツ』でも、体験いただけると思います。──なるほど。ターン制コマンドバトルという、スクエニというかJRPGの歴史の延長線上に、「ブレイブリー」らしさがあるというわけですね。小松氏: なので僕らとしても、そこに対して責任を持たなきゃいけない、という想いはありますね。そこに対して裏切りがないように、良いものを作り続けなきゃいけない。そうでなければ、IPとして継続していけないと思っていますので。■ガッツリと時間をかけて遊ぶスマホゲームを「仲間と一緒に楽しむ」スタイルが生まれている──先ほどのお話にあった、「じっくり考えて戦う遊び方」というのは、それこそ昔のフィーチャーフォンやスマホのゲームでは、むしろ否定されてきたスタイルですよね。ところがここ数年、それがむしろアリになっている。スマホゲームに長く携わられてきた小松さんから見て、スマホゲームを遊ぶお客さんの遊び方の変化だとか、スマホゲームに対する扱いの変化で、けっこう変わってきたなと感じることはありますか? 小松氏: そもそもソーシャルゲームのユーザーにとって選択肢がたくさんあるなかで、ガッツリと時間をかけて楽しむタイプのゲームだけじゃなくて、一方ではまったく時間を食わない放置タイプのゲームも受け入れられていますし、そういう意味では二極化しているのかなと思っています。 なぜそう変わってきているのかというと、いろんな要因があるのかなとは思うんですけど。ひとつには、ユーザーが求めている水準が高くなっている点。求められるものに対してどんどんブラッシュアップしていった結果、こうなったのかなと。──スマホゲームって、昔は日常生活の「隙間」で遊ぶというのをけっこう言っていたと思うんですけど、今は隙間で遊ぶというよりも、30分とか1時間とか、ガッツリ向き合うような遊び方になってきていますよね。それはRPGだけじゃなくて、ちょっと前は「スマホでFPSなんか遊ばないよ」という話があったと思うんですけど、それが今は思いっきり遊ばれている。 なぜそうなったのかというと、特に若い子たちの「自分の持っているデバイスでいちばん楽しい体験をしたい」というシンプルな動機なのかなと感じていて。そのためには「スマホだから遊びづらい」とかはもう、別に関係ないんだろうなと。昔だったらコンシューマはこうで、モバイルならこうで、みたいな遊び分けをしていたんだけど、今はそれもなくなって。とにかく自分が持っているいちばん身近なデバイスで、いちばん楽しいことをしたいんだと。小松氏: ハードウェアの進化が、それを牽引した部分もあるでしょうね。 あとはコミュニティのあり方の変化みたいなところもありますよね。前作の『フェアリーズエフェクト』の時に本当にビックリしたのは、「自分の好きなゲームで遊ぶ」というのがプレイヤーの目的ではなくて、「好きなゲームで遊んで、さらにその仲間を見つけて一緒に楽しみたい」までが目的になっているのを感じたんですよ。「仲間と一緒に楽しむ」という部分の比重がけっこう大きいんだなぁと、最近は特に思います。──それは興味深いですね。小松氏: 自分の好きなタイトルや、IPや世界観を共有できる仲間がいないかな? とTwitterとかで探して、たまたま同じゲームに興味を持った人たち、「ブレイブリー」に興味を持った人たちで一緒になったら、やっぱりお互いに話が合うとか、毎日プレイするからそういう話で一緒に盛り上がれる、といった楽しみ方が増えているとすごく感じますね。──僕自身、オンラインゲームの黎明期にプレイヤーとして立ち会ったタイプの人間なんですが、MMORPGって一度ディープに遊べば強固なコミュニティができるじゃないですか。いったん強固なコミュニティができると、そのコミュニティ単位でいろんなゲームを遊んでいくんですよね。小松氏: まるでキャラバンのようですね(笑)。──「今度『リネージュ2』ってのが出るらしいぞ」とか、「『FFXIV』が出たらこのメンツでトップを取ろうぜ」とか。でもそれって、人間の根源的な「遊び」への動機だと思うんです。ただ昔はそれが、ハイエンドなパソコンを持っていて、コミュニケーションツールを使いこなすことのできる人たちの遊びだったわけですけど。小松氏: 昔は一部の人のものだったわけですよね。──でも今はそれがLINEでグループを作るとか、Twitterでリストを作るとか、すごく手軽にできるようになって。その一方で、昔のギルドみたいに本格的なコミュニティも、Discordとかでできるし。そんなふうにゲームを遊ぶ仲間というものにいろんなグラデーションができたな、と感じています。 僕ら40代ぐらいの人間だと「オフラインの友達」「オンラインの友達」みたいなのがありますが、今の若い子に話を聞くと、そういうのがないんですよね。リアルの友達とオンラインの友達との切り分けがなくて。小松氏: ゲームで出会って結婚されたりというのも、普通にありますからね。 実際『フェアリーズエフェクト』でもありましたね。──そういうことに対して、もはや違和感を覚えることもない。小松氏: そういう状況なので、『ブリリアントライツ』の発表をした時も、過去作のコミュニティが盛り上がっていたんです。「また同じ「ブレイブリー」の世界で会えるね」といった会話が交わされていて。今回はシングルプレイRPGではあるんですけれども、フレンド機能とかチームもあるので「またつながろうね」と話し合ったりしているんですよ。 「ブレイブリー」という世界観の枠の中で、キャラクターや世界観、音楽についての会話が成立する仲間とまた会える、というところが今回は非常に良いのかなと。──送り手の側も、そうした反応を意識されているのですか? 小松氏: コンシューマだと、次のナンバリングを出すまでに準備も含めて時間がたくさんかかるので、その間を埋めるじゃないですけれども、スマホのスピンオフである『ブリリアントライツ』でファンの居場所、会話できる場所をずっと作りたいですね。「ブレイブリー」は作品ごとに主人公が変わるんですけど、「それぞれのキャラクターが好きな人たちの居場所をどこかに作りたいと思っていた」って、浅野さんも言ってました。──コミュニティに関して、チャット機能のお話があったと思うんですが、今はSNSが発達しているので、「ゲームの内部にそうした機能を用意する必要があるのかな?」とも思うのですが、そこはどうなんでしょう。小松氏: もちろん情報のやり取りは、やっぱりSNSがメインになってくるのかなと思います。チャットとかギルドみたいな要素って、正直に言うと『ブリリアントライツ』にはまったく必要ないんですね。ただ、これまでにお話ししたようにスマホゲーム内でのコミュニティ形成という実績があるので、その良い点を今回も引き継ぐという意味で、そういった要素を残しているんです。 その機能に関してはけっこう作り込んでいます。仕組みとしてはスタンプ機能であるとか、かなりLINEライクにチャットできるように仕様を考えていて。なので、きっと活用してくれるだろうと期待しています。■ゲームシステムをさらにブラッシュアップすることで、スマホゲームに適した爽快感を生み出していく──「ブレイブリー」を作っていて、これまでのソーシャルゲームと比べてここがラクだなぁと思った点、あるいはここが大変だなぁと思った点はどういった部分ですか? 小松氏: ラクだなと思うのは、受容性の高い、広く受け入れられてきたゲームシステムですね。自分自身も実体験としても幼少期から多く経験しているものですから、そこに関しては作りやすいというか、もともと知っている部分、アイデアの出やすい部分なので、良いなと思っています。 一方で難しいなと思うのは、やっぱり「ブレイブ&デフォルト」のシステムですね。ターン制コマンドRPGでターンを前借りして最大4回まで連続して動けるというのは、けっこうぶっ壊れたシステムだと思いますよ。なので、ここのバランス作りというのが非常に大変だなと。 もちろん原作も遊んできたので、それはわかってはいたんですけど。とはいえ、これをスマホで再現して、運用型なので終わりなく作っていかなきゃいけないというのは、大変ですね。 たとえば「このキャラって、ブレイブしてこの技を4発使うだけで敵を倒せちゃうよね」みたいなこともあるんです。だけど、「ブレイブリー」はその爽快感こそが大事だったりするので。 そこの爽快感は残しつつ、ハードルとして難しいバトルじゃないと、戦っていて楽しくないですから、そこをどう作っていくか。ゲームを運用してアップデートしていくことを加味すると、非常に扱うのが難しいシステムだなという印象が強いですね。──もう少し詳しく伺えますか? 小松氏: 本作ではキャラクターの扱いが原作とは違って、固定のアビリティを3つ持った状態をずっと提供し続ける形になるんです。その中でキャラクターを順次追加していくわけですけど、キャラクターのバリエーションを作る上ではちょっと物足りないなと感じたんですね。 なので今回、『オクトパストラベラー』であったような「シールド値」や「ブレイク」という要素をブレイブ&デフォルトにさらにプラスしています。──シールド値を導入することで何が変わったのですか? 小松氏:たとえば、メインストーリーで登場するザコ戦では、特にシールド値を意識せず、フルブレイブである程度育てれば、簡単に撃破できるように作っているんですね。それは爽快感を残すために、あえてそうしているんですけど。 一方で、エンドコンテンツみたいなものも用意しているんですけど、原作に近い手応えのあるバトルを再現していて、そこでシールド値が生きてくるんです。ブレイブする、つまりぶっ放すというのを、ちゃんと適切なポイントで行うようにしたかったんです。 『オクトパストラベラー』みたいに、「ブレイクした瞬間にブレイブしてぶっ放す」という形にしたいなと思っていて。そうすると味方キャラの役割にしても、シールド値を削るような役割が増えるわけですよね。そこでキャラクターのバリエーションを増やすこともできる。 爽快感も残るし、シールドをブレイクするという戦略性も残るし、キャラクターのバリエーションも作れる。それはそういう戦略性を作る、遊びを作れるというのが、体験としてすごくいいなと思ったんです。──そういった仕様的なアイデアは、浅野さんたちとディスカッションがあったのですか? それとも小松さんのほうで落とし込んだのですか? 小松氏: そこはわりと初期の頃に、ディレクターの古川(慶二氏)と相談して作っていったところですね。■「ファンが喜ぶなら」という浅野プロデューサーの言葉を、自分たちも継続している──話がいったん「ブレイブリー」から離れてしまうのですが。そもそも小松さんはどういった経緯でスクエニに入社して、なぜ今「ブレイブリー」に関わっておられるのでしょうか? たとえば、RPGはお好きだったんですか? 小松氏: 僕はスクエニに入社する前、今から10年ぐらい前にゲーム業界に入ってきた時からソーシャルゲームの開発に関わらせていただいていていました。もともとソーシャルゲーム畑で、ディレクターであったり、企画職として動いてきたんですけど。 スクエニに入社したのが5年ぐらい前なんですが、最初の配属から『フェアリーズエフェクト』に関わるようになり、現在に至ります。 個人的な趣味嗜好で言うと、僕がJRPGにいちばん最初に触れたのは『ファイナルファンタジーIV』だと思うんですけど、その頃から『FF』やJRPGは好きで遊んできました。もっと言うと、普通にディープな光の戦士(『FFXIV』プレイヤー)だったので(笑)。そういう意味ではMMORPGが好きな人間ではありますね。──ちなみに、スクエニに入社する前はどちらに?小松氏: これもちょっと運命的だったりするんですけど、シリコンスタジオというところにおりまして。そこは「ブレイブリー」の開発も行っておりまして、僕はその開発のプロジェクトにいたわけではないんですけど、働いているすぐ横にそのプロジェクトがあったので、もともと身近な存在ではありましたね。──スマートフォンで『フェアリーズエフェクト』や『ブリリアントライツ』を作るにあたって、「ブレイブリー」シリーズの生みの親である浅野智也さんから受け継いだものは、何かありますか? 小松氏: 浅野さんとは『フェアリーズエフェクト』に関わるようになって以来、月1回のミーティングで必ず顔を合わせて話している関係です。浅野さんは良い意味で、こちらに任せてくれる方なので、けっこう好きなようにやらせていただいているんですよね。 ただ、『フェアリーズエフェクト』を運営しながらいろんな外部のIPとコラボしていく時に、世界観に関わるものなので浅野さんに監修をお願いするんですけど、その時に浅野さんは必ず「ファンが喜ぶなら」とおっしゃるんです。 既存のファンを大切にしつつ拡大していくというのは、浅野さんのその言葉を受けて、自分たちも継続しているところではありますね。■新しいファンに本作を届けることで、来たるべき20周年につなげていきたい──『ブリリアントライツ』で、小松さんが理想的だと考えるのは、どんなところですか? 小松氏: 我々が引き続きこのシリーズで担うのは「ファンを喜ばせる」ということですけど、理想的なところで言うと先ほども言ったように、「ファンを喜ばせることがユーザーの拡大につながっていく」と思っているんです。そのためにも、新しいファン層に本作を届けたいですね。 「ブレイブリー」としては、新しい若いファンが増えていってくれると、すごく嬉しいなと思います。そしてその若い人たちが30代とかになった頃には、またシリーズの20周年につなげていければいいなと。──そういった新しい若いファンに刺さるファンタジーとは、どういうものだと思いますか? 小松氏: それに対する明確な答えは……まだないですね(笑)。ただ、見せ方とかもけっこう大事になってくるのかなとは思います。 あとは、SNS世代であることは今後も変わらないと思うので、横のつながりを大事にしたいですね。「この人がやっているから私もやろう」というのが、今はゲームを始める上ですごく大きな動機になると思うので。 まぁ、おじさんがヘタに迎合するとすごく冷めた感じになったりするかもしれませんが(笑)、そこの仕組みをよくよく考えてやっていかないといけないでしょうね。──本格ファンタジーみたいなものをド直球にやりすぎると、それこそおじさんたちしか反応しなくなるので(笑)、そういったものが持っていたエッセンスを抽出した形で、若い子たちに届けられたらと思うんです。「ブレイブリー」は現状でもそれに成功していると思うのですが、どういったポイントがあるのでしょうか。絵柄とかですか? 小松氏: 絵に関しては正直、シリーズに合っている方を選択しているので……。ただ、若い子も狙いたいし既存ファンも狙いたいしってなると、ひとつしか選択肢がない時に、そのふたつを同時には選べないですよね。 ひとりのキャラクターに2枚の絵柄を用意できるわけではないので。そこがブレちゃうのは良くないと思いますし。最初にお話ししたように、メインはやっぱり既存ファンへのアプローチなので。基本的な作りとして、「コンセプトどおりにやっています」というところはブレないですね。──『ブレイブリーデフォルト』の1作目が出た頃は、もっと懐古的だと思ったんです。でも今は「古き良き」というところに、そこまで強くは振ってはいないのかな? とも思うのですが? 小松氏: 「古き良き」というのは、思い出補正が発生してしまうんです。自分たちもそうなんですけど、「当時体験したときよりももっと面白かった」と思ってしまうんですね。なので、いま届けるゲームではそこに新しさを加えていかないといけないと、常々意識しているらしくて。 「ブレイブリー」は、もともとのIPやシステム自体が普遍的なものなので、流行り廃りのものではないんですけど、そこに新しい要素を加えていくことが大事だと思います。 クローズドベータテストのバージョンは、難易度の調整がかなり難しくなっていたのですが、それでも若い人たちの反応が良かったので、嬉しかったです。──難易度の高いゲームって、最初は「こんなのクリアできねえよ」みたいに言われたりもしますけど、それって文句ではあるんだけど、同時にそれも含めて体験であって。少なくともそれは、何の難しさもなくスッと通り抜けることができるものよりも、プレイヤーの感情はずっと動くわけじゃないですか。小松氏: おっしゃる通りだと思います。「ブレイブリー」もよく難しいと言われているんですけど、それを何人かの人がクリアして、その様子を動画にアップしたりすると、その攻略を模倣してまた新たにクリアする人が出てくるという。それも一連の流れになっているので。 ゲームって今はゲーム内だけで完結しているものではなくて、そういう体験も全部含めて、ゲーム体験だと思うんです。「ブレイブリー」はおそらくそういうところをくすぐってくれる。そういう意味で「古き良き」ゲームなんだと思っています。 今回の『ブリリアントライツ』も難しいとは思うんですけど、そこも楽しんでいただきたい難しさではありますね。 これまでもお話ししてきたように、『ブリリアントライツ』はシリーズのファンをかなり意識した作品ですが、その一方でシリーズを未経験の方でも楽しめるようになっています。 シリーズを担当してきたシナリオライターの網代恵一さんを迎えて、「ブレイブリー」シリーズの魅力を10年まるまるというわけではないんですけど、追体験できるようなストーリーになっていますので。未経験の方でも『ブリリアントライツ』を機に、「ブレイブリー」シリーズの魅力がいろんな人に伝われば良いなと思っておりますので、ぜひ遊んでください。──ありがとうございました。(了) インタビューの中でも話題になっていたように、『ブレイブリーデフォルト』が登場した2012年前後は、日本のゲームメーカーが海外市場を強く意識するようになり、アクション性の薄いターン制コマンドバトルのRPGがあまり作られなくなっていた時期だ。 その後の10年で、日本のクリエイターが生み出したコマンドバトルのRPGが海外でも高く評価されたり、インディーゲームでいわゆる「JRPG」(※日本のクリエイター以外が制作したものも含む)が多くリリースされたりと、その状況は変わってきている。そうした流れを変えた上で、「ブレイブリー」シリーズもまた確かな役割を果たしたと言える。 一方でこの10年は、スマホゲームの位置づけが大きく変化してきた時期でもある。かつてのスマホゲームのイメージと言えば、アクションパズルのように短時間で遊べるものが中心で、長いストーリーなどはむしろ不要なものとされてきた。だが今では、コンシューマと同等以上のテキスト量や、攻略しがいのあるスマホRPGが多数リリースされて、高い人気を集めている状況だ。 そう考えると『ブレイブリーデフォルト ブリリアントライツ』は、まさにこの10年間のゲームを巡る状況を象徴するようなタイトルだと言えるだろう。ターン制コマンドバトルならではの面白さが凝縮された本格的なJRPGをスマートフォンで楽しめる本作に対して、10年前の状況を知らない若いプレイヤーたちは、いったいどのように反応するのだろうか。もしかするとその反応から、これからゲームが向かっていく「次の10年」の様相が見えてくるのかもしれない。

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